密会の兄者に淡き春の雪 福田葉子一見、艶っぽい句にも思えるが、そうではないだろう。題は「反魂歌」であるので、この「密会」はシリアスなものである。作者にとっての「兄者」かどうかは不明だが、大変ごとに遭遇している「兄者」の熱を雪が冷ましているようだ。春の雪にそうした情緒が込められている。
「反魂歌」【俳句新空間No.2】 2014(平成二十六)年[新春帖]所収
密会の兄者に淡き春の雪 福田葉子一見、艶っぽい句にも思えるが、そうではないだろう。題は「反魂歌」であるので、この「密会」はシリアスなものである。作者にとっての「兄者」かどうかは不明だが、大変ごとに遭遇している「兄者」の熱を雪が冷ましているようだ。春の雪にそうした情緒が込められている。
筑紫野のガソリンスタンド匂ひけり 夏木 久「楽浪之思賀乃辛碕雖幸有 大宮人之船麻知兼津」と前書きがある。他の九句のもすべて万葉仮名?の前書きが付されている。筆者は万葉仮名を善く読まないが、同時に船はガソリンが燃料なのかも知らない。他に「サクラサクトキニハハハニチチモサク」「ぜつぼうはふかふかしをりはるともし」など、作者の強烈な個性を同じく強烈な言葉に移して表現している。永田耕衣に「自分ともう一人が理解すればよい」というような言葉があるようだが、将にそのような潔さの上に成立している句だ。そうした自己完結的な世界の中で、表現する内容と叙述の方法が研ぎ澄まされていくのを作者本人が楽しんでいるかのようである。
枚方の叔母飼いたがる都鳥 羽村美和子
美しきひととよはひを重ねてゐ 筑紫磐井新春帖(追加)として別ページに十句のみ掲載されている内の一句だ。十句には「スタア誕生」の題が付されていて、一見何れの句も漢字と仮名文字の取り合わせが有する句々である。内に一字空けの句と、句読点入りの句が一句ずつある。掲句はご伴侶と共に新年を迎えた慶事を叙しているようだ。が、「美しきひと」は伴侶とは限らない。例えば俳句の上での盟友であったり…。「美しき」が何を以ての修飾語なのかを明示していない点が巧みである。読者の想像力へその読みを委ね切っている。無防備なまでにだ。そこに新感覚のポエジーが生ずるのであろう。「かなしきほど騙されやすきくせいつも」「未知のものつねにうるわし水中か」「おしやれして出かける先はひとりもの」なども同様の手法で叙されている。
寒き日や「ヒロユキ御飯食べた?」と訊く 北川美美次に配されている句は「食べられる蒲公英を摘む息子かな」である。ヒロユキは蒲公英を摘んで食したのであろうか?初読の際にそう錯覚した。多分、この二句に関係性はないであろう。句の構成は文語に切れ字「や」の上五、中七座五は括弧で括られた口語体の疑問文でご丁寧に?マークが付されている。終わりには終止形の動詞だ。何とも奇態な構えである。むろん二十句の中に異質な掲句が一句だけ挿入されている所が作者の工夫でもあり、二十句を面白くしている由縁である。ヒロユキの片仮名書きはヒロユキと作者が面識のないことを示していて、「ヒロユキ御飯食べた?」の会話が何処からか作者の耳へ聞こえてきたように表現されている。ヌーベルバーグ的偶然を演出して見せている。