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2016年11月11日金曜日

【俳句新空間No.3】ふけとしこ作品評 / 大塚凱



  オリオンの腕を上げては星放つ
冬の澄明な夜空を見ていると、瞳にはオリオン座の、否、オリオンの姿そのものが浮き上がってくるように感じたのだろう。そのオリオンが腕を上げていると意識したとき、星座をなす星々の輝きが放たれた。本来は星が光を放つと述べるべきところを「星放つ」と敢えて強引に書いたこと、そして、オリオンの姿が浮かび上がるかのように感じられるさまを「腕を上げては」と表現したことが句のスケールを広げた。

常識に即して考えるならば、オリオン座の腕を表現する星を見つけたときにオリオンの「腕」を脳裏に描くのが素直な把握であろう。しかし、この句においては「腕を上げては星放つ」という逆転的かつ大胆な発想が魅力となっている。星の鋭い光とともに、その「腕」の力感がダイナミックに伝わってくる。

  雪の日を眠たい羊眠い山羊
雪の日には不思議な眠気を感じる。その静けさのせいか、あるいは体温が低下して疲労するからか。羊や山羊も雪を戴くかのようなその白い毛でからだを覆っているのかと思うと、いかにもあたたかそう。「眠たい羊眠い山羊」という措辞も頷ける。上五のさりげない「を」に技巧が光る。

2016年9月23日金曜日

【俳句新空間No.3】 ふけとしこの句 / もてきまり



成人の日硝子切る音どこよりか ふけとしこ
「硝子切る音」とは思わず耳を塞いでしまういやな音がするものだ。その音が成人の日にどこよりかすると云う。式典で市長がブチ切れ、騒ぐ新成人に「出て行きなさい!」と怒鳴ったニュースなどが記憶に新しいが、成人の日は祝日であるものの不穏な日。他句に〈日脚伸ぶ宗右衛門町に研師来て〉「日脚伸ぶ」という奥行きを与えられて「宗右衛門町(そえもんちょう)」「研師」という輪郭線の太い木版画のような一句。

2015年7月30日木曜日

【俳句新空間No.2】 ふけとしこの句 /もてきまり


誘拐現場十薬の花の浮き ふけとしこ
まず俳句現場ではあまり見かけない「誘拐現場」という言葉に「えっ」と思わせるものがある。俳句用語に作者の既成概念のなさを感じた。そして「十薬の花が浮き」とは襲ってくる人の恐怖心をアナロジーしていて、それを宙吊りにしたままの終わり方もうまい。〈包帯の伸びきつてゐる夏野かな〉この句もたぶん夏野を前に洗濯物として伸びきった包帯が干してある光景なのだろうが省略効果からか、夏野と伸びきった包帯がフェイドイン、フェイドアウトしてまるでヌーヴェルヴァーグの映画の出だしのような不安や不穏を内包した景を提出している。