誘拐現場十薬の花の浮き ふけとしこまず俳句現場ではあまり見かけない「誘拐現場」という言葉に「えっ」と思わせるものがある。俳句用語に作者の既成概念のなさを感じた。そして「十薬の花が浮き」とは襲ってくる人の恐怖心をアナロジーしていて、それを宙吊りにしたままの終わり方もうまい。〈包帯の伸びきつてゐる夏野かな〉この句もたぶん夏野を前に洗濯物として伸びきった包帯が干してある光景なのだろうが省略効果からか、夏野と伸びきった包帯がフェイドイン、フェイドアウトしてまるでヌーヴェルヴァーグの映画の出だしのような不安や不穏を内包した景を提出している。