2015年7月14日火曜日

【俳句新空間No.2】 神谷波の句 2 / 前北かおる


麦秋の赤信号を牛走る  神谷波
季題は「麦秋」で夏。初夏、新緑とともに麦は黄色に熟します。作者は、車に乗っているのでしょう。赤信号で停止していると、牛舎から放牧場への移動でしょうか、牛が横断しはじめたのです。牧場スタッフの誘導で、おしまいの方の牛は急がされて、走って渡っていきます。作者は、田舎ならではののんびりとした光景に半ば呆気にとられながら、牛たちを見送ったことでしょう。
 この句を一読した時には、インドあたりを思い浮かべても鑑賞可能かと考えました。けれども、「赤信号」を走らせて渡るところはいかにも日本的で、実はそれほど景の揺れる句ではないと考え直しました。