父の日の暮れて影置く畳かな 中西夕紀何の影とは言っていないが、物自体が重要なのではない。外の方が明るいような夕暮時、まだ灯りを点けぬ薄暗い畳に落ちる物影の趣が、昔の日本の父の趣に重なる。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を思い出す。「われらは落懸のうしろや、花活の周囲や、違い棚の下などを填めている闇を眺めて、それが何でもない蔭であることを知りながらも、そこの空気だけがシーンと沈み切っているような、永劫不変の閑寂がその暗がりを領しているような感銘を受ける。」掲句の影にはこれと同じ閑寂がある。その閑寂は、そのまま厳格で寡黙な父の姿でもある。