照り雨に桐咲く能登の崖つぷち 神谷波季題は「桐咲く」で夏。照り雨を降らせる空高くに桐の花が咲き、目の前には照り翳りする日本海が広がる、そんな能登の崖の上に作者は立っているのです。足下では、荒波が大きな音とともに砕け散っています。圧倒されるような雄大な景を、「崖つぷち」という口語の勢いも借りて力強く描いた一句です。同時に、近景の「桐咲く」という気品ある季題を掴まえることで、ひとまとまりの情景に仕上げてあります。作者の高揚した気持ちをそのまま詠い上げているようで、行き届いた写生によって読者を句の世界に導く周到な仕掛けが施されているのです。