2016年7月22日金曜日

【俳句新空間No.3】前北かおる作品評 / 大塚凱


 新年の季語は交えず、雪に降り積もる日光・湯西川の冬景色を素直に詠った二十句作品である。写実的な句の数々であった。

  河原石まるまる太る冬日かな
石がまるまるとしている、というだけではなかなか一句には成りえないが、「太る」という一語が句の主眼を成した。摩耗してゆく運命を逃れ得ない河原の石から「太る」という言葉を得たのは、まさに冬日のぬくもりのなかであったからだろう。ゆたかな冬の陽射しを吸うかのような石の有り様、無機物の物体にそこはかとない「いのち」を感じているような作者のまなざしが感じられて眩しい。

  踏む人のなくて汚き霜柱
霜柱が踏みしだかれている無残な光景はしばしば目にするところだが、それを逆転的に発想した。踏む人のない全き霜柱はうつくしいものだと思われているが、その霜柱も土の汚れを免れ得ない。そんな霜柱の一面を切り取っている。

  漆黒の水に蓮の枯れ残る
冬の水の昏さを「漆黒」とやや大袈裟に表現し、枯蓮の色彩が浮かび上がるかのような構図が生まれた。「漆黒」という一語の力である。