2015年6月30日火曜日

【俳句新空間No.2】  高橋修宏の句 1 / 後藤貴子


廃炉より蛹の如き呼吸音   高橋修宏
原発先進国イギリスの認識では、原子炉を完全に安全停止するのに七十年以上の歳月がかかるとされる。原発停止後、核燃料の冷却だけで三年かかり、そこから本格的な廃炉作業に入るのだが、原子炉は活動を止めたわけではなく、蛹のごとき静止状態を保ったまま、放射線物質を空気中に放出しつづける。高橋の句業の中心には、「歴史のテクスト」をもとにした「見えづらかった何ものか」(禁忌的本質)のあぶり出しがあるように思われる。震災後の彼の作品は、散発的に原発事故を作品のモチーフに据えているものが見られるが、本作もその一つであろう。歴史は既に成されてしまった事象などではなく、現在進行形の私達の生活そのものなのだ。