2014年11月14日金曜日

【(『俳句新空間No.2』 平成二十六年[夏行帖]を読む】  第一夜 ワルツは踊らない〜大本義幸〜  / 中山奈々



この街の話をしよう。出来るだけ君が飽きないように話すけれどね。どうかな。元来、話下手だしね。まあ聞いておくれよ。

街にはね、馬鹿でかいモニュメントがあるんだ。とある祭典のために作られたそれは、異形そのものだった。神々しくもあり危なっかしくもある。いつの時代も外れたものはあるのだけれど、それは特別外れていた。

高度経済成長期。そんな風にあの時代を呼ぶのかな。時代に乗るんじゃなくて、時代を作るんだってパワーがあちこちに満ちていた。パワーといっても、目に見えないことには仕方ないね。だから街を開発した。ベッドタウンに、医療施設、大学誘致、それであの異形のものを据えたのさ。

あれから何十年経ったかな。街は錆れた。いや錆れるようなものはなかったか。何もかも中途半端に進んでは、頓挫した。ただ医療施設だけは全国屈指の誇るべきものになったよ。

しかしね、その医療施設だって一部の限られた人だけさ。看てもらえるのは。大きなところで看てもらいたい、その、なんだ、われわれのような、少し金に恵まれないものは市民病院に行く。なあ、知ってるかい。市民病院をもじって「死人病院」なんていうのを。誰も表立って言わないけれど。あるんだよ、そういうものはさ。見ないように聞かないようにしているだけで。


あの陰影死者を運ぶエレベーター    大本義幸
病院で死ぬということ犬ふぐり

ここと隣街との間には川が流れていてね。ブルーシートが川に沿って綺麗に並ぶんだ。それが何か、君に分かるかい。


死体を隠すによい河口の町だね    大本義幸

隣街は県庁所在地だし、こっちは高度経済成長期の異形を遺す地だ。どちらの街も、少子高齢化を嘆き、子育てをしやすい街を目指している。大事なことさ。でもこの街に住む子どもに戻っていく老人たちはどう住めばいいのかな。知っていたら、教えておくれよ。

老犬がひく老人暮れてゆく          大本義幸