2014年10月10日金曜日

登頂回望・号外編(その1)[仲寒蝉] /  網野月を


冬麗や廃墟の石の尖りにも    仲 寒蝉


 (『俳句新空間No.1』「新春帖」平成26年1月1日より)

海外での句作は季語の問題などからも困難さを伴うものである。「アストゥリアス」の題が付されていて、スペイン北部の州アストゥリアスへの紀行俳句のようである。二十句には作者の好きな研ぎ澄まされた対象を詠み込んでいて、極めて先鋭的な感覚が伝わってくる。「寒月光とどくや沼の底の剣」、「巡礼の道にしたがふ冬銀河」、掲句、「石の壁いちまい冬の日に対す」「尖塔に凍雲触れて過ぎゆけり」などなどだ。対象の質感をそのまま句の中へ取り込もうと意図している。それだけに語句が生のように感じるのだが、それも作者の術中に筆者がはまってしまったからであろう。筆者はレンタカーでバスクから聖ヤコブの道を辿ったことがあるが、残念ながらアストゥリアスは通過地点であった。このような水分の比較的少ない土地柄で、句作することは難しいと思われるが、作者は見事に成し遂げている。(『俳句新空間No.2』より転載)