春の鹿群れを離れて汚れゐて 小林千史
(『俳句新空間No.1』 「新春帖」平成26年1月1日より)
春鹿にとっては大変な事件があっただろうが、作者の目からは座五の「汚れゐて」が重要なのである。眼前の鹿が汚れていることが作者の琴線に触れてのである。中七の「て」と座五の「て」と重ねる方法で、句のリズムを意図的に作り出している。二次元的世界で別方向へ中七と座五を導いているのではない。それではその二本の導線が元の方(逆の方)で交わってしまうからだ。二本の導線は三次元的に配置されて交わらないようになっている。同じ春鹿の状態を表現している語なのであるが、そうすることによって、春鹿の群れから離脱した孤立感や「汚れゐて」から来る切迫感が演出されている。