2017年4月18日火曜日

【俳句新空間No.3】平成二十六年甲午俳句帖 [佐藤りえ] / 小野裕三


厚着して紙を配つてゐる仕事  佐藤りえ
紙を配る仕事というのは基本的には単調な仕事のはずだ。仕事、という言葉でぶっきらぼうに句が終わるのは、そんな苛立たしさを言葉の行き止まりにぶつけているようでもある。だが、そんな気持ちとは裏腹に、手の動きに正確に正比例して紙束の山は着実に減っていく。そんな気持ちの停滞と物理的な進捗との間を繋ぐのが、その作業を執り行う肉体だ。なんとも板挟みのような肉体は、ただ厚い衣服に包まれるばかりだという。そんな幾層もの温度差の行き違いに、洒落た諧謔性の見える句。