2017年1月27日金曜日

【俳句新空間No.3】平成二十六年甲午俳句帖 [竹岡一郎] / 大塚凱



  蟹星雲産んで溽暑のとほき股 竹岡一郎
超現実的な魔力を感じる一句だった。蟹星雲は牡牛座にある星雲。手元の広辞苑第六版によると、藤原定家の「明月記」と中国の記録とによって一〇五四年に木星ほどに輝いた超新星の残骸である、とのこと。ロマンあふれる星雲のことを、作者は考えている。その折り、「溽暑のとほき股」を見たのかもしれない。熱された大地のゆらぎの上に遠く立つ女。その生命が蟹星雲を産んだのかもしれない、と空想した。星雲を産むかのような女体の神秘は、星雲ほどの遥けさで我々と隔たっているのである。