2016年12月23日金曜日

【俳句新空間No.3】堀本吟作品評 / 大塚凱


  蟻地獄臨月の身を乗り出すな
「蟻地獄」と「臨月」という言葉の衝突に惹かれた。他者の死を待つものと、他者の生を湛えるものとの対比が鮮やかだ。きっと蟻地獄を「覗く」程度の動作であろうが、「乗り出す」と大胆に表現したことで蟻地獄と人間のスケール比に不思議な狂いが生まれ、あたかも蟻地獄から人間を見上げているかのような視点すら感じられる。「乗り出す」という言葉の選択で既に句の面白さは十分に生まれているのだから、個人的には「乗り出すな」と述べてしまうよりも、臨月の身が蟻地獄に乗り出していると素直に描いた方がドライな詠みぶりで過不足ないと思うのだが、どうだろうか。

  堂々とででむし遅れ月は缺け
この句も「ででむし」と「月」のオーバーラップが面白い。「堂々と」「遅れ」ているという言葉の捻じれが巧みである。ででむしの存在感やある種の滑稽さも感じられるだろうか。缺けた月の動きがそのようなででむしのスピードと重ねあわされているかのようで、句に静謐さが満ちている。月もまた缺けながらも堂々たる光を放っているのであろう。作者の無聊なまなざしまでもが感じられる点に加え、珍しく夜のででむしが詠まれているという興もある。