2016年11月11日金曜日

【俳句新空間No.3】ふけとしこ作品評 / 大塚凱



  オリオンの腕を上げては星放つ
冬の澄明な夜空を見ていると、瞳にはオリオン座の、否、オリオンの姿そのものが浮き上がってくるように感じたのだろう。そのオリオンが腕を上げていると意識したとき、星座をなす星々の輝きが放たれた。本来は星が光を放つと述べるべきところを「星放つ」と敢えて強引に書いたこと、そして、オリオンの姿が浮かび上がるかのように感じられるさまを「腕を上げては」と表現したことが句のスケールを広げた。

常識に即して考えるならば、オリオン座の腕を表現する星を見つけたときにオリオンの「腕」を脳裏に描くのが素直な把握であろう。しかし、この句においては「腕を上げては星放つ」という逆転的かつ大胆な発想が魅力となっている。星の鋭い光とともに、その「腕」の力感がダイナミックに伝わってくる。

  雪の日を眠たい羊眠い山羊
雪の日には不思議な眠気を感じる。その静けさのせいか、あるいは体温が低下して疲労するからか。羊や山羊も雪を戴くかのようなその白い毛でからだを覆っているのかと思うと、いかにもあたたかそう。「眠たい羊眠い山羊」という措辞も頷ける。上五のさりげない「を」に技巧が光る。