東京広し銀杏落葉を踏み滑り 池田澄子
「滑り」で一句になった。穏やかな秋空の下で、作者は銀杏並木を歩いているのだろう。普段はめったに意識しない東京の広さを、「踏み滑」ったときに意識したのである。そもそも、「東京の広さ」とはなんであろうか。たしかに、東京は世界の大都市と比べても面積が大きいけれども。しかし、滑った作者が仰げば、高層建築が空を押し広げている。銀杏の木々の上には澄んだ青空が広がっているだろう。滑ったときに仰いだそんな「東京の広さ」。そして、そのように滑ってしまった自分ひとりが、広い東京のなかで「ここに在る」という心地。蟻のようにあふれる東京の人間のひとりでありながら、並木道のなかでひとり滑ってしまった。そんなちょっとした恥ずかしさがユーモアの中に描かれている。