泳ぎゐる一塊のしめぢかな 西村麒麟
しめぢ又たぷんと浮かび来たりけり 同
沈めたるしめぢのことを思ひ出す 同
秋興帖の西村麒麟五句から三句を掲げた。五句全て「しめぢ」が季語である。「しめぢ」を執拗に描写する作者のまなざしにかすかな畏怖すら覚えた。「泳ぎゐる塊一塊」「又たぷんと浮かび」は「しめぢ」の質感を素直に描写していて妙。作者はキッチンの水にたゆたう「しめぢ」を慈しむが、両者には調理する者と調理される者という一般的な関係性が保たれている。ここに、読者が読みを深める隙が存在しているのではないか。そのドライな偏愛が〈沈めたるしめぢのことを思ひ出す〉に凝縮されている。