2016年5月20日金曜日

【俳句新空間No.3】神谷波作品評 / 大塚凱



 「師走」から新年詠を経て「木守」まで。新春帖に相応しい、去年から今年への移り変わりを真正面から詠んだ二十句作品である。

  大声に師走の猿の逃げつぷり
作品の第一句目。「走」と「逃」は連想としてはやや手近なところではあるが、簡潔な述べ方が良い。「逃げっぷり」の「っぷり」が師走の猿の様子をユーモラスに想像させてくれる。

  数え日の棚からだるま落ちてくる
前掲の句に続く二句目。棚からだるまが落ちてくるという、何とも言い難い「数え日」感。生活に即しているような軽い詠みぶりが、魅力的である。続く〈あまりにも近すぎ除夜の鐘の音〉と続くところを見ると、ユーモアにあふれた作風であると評価したい。他の句はおそらく旧仮名遣いで書いているので、「数へ日」に正したいところではある。

  鷹晴れと呼びたきほどの二日かな
「鷹晴れ」という表現も、作者独特のものである。晴れていることのめでたさは誰しもが感じ得るところ。「鷹晴れ」という言葉を得たことで、そのスケールの大きさを生んだ。「二日」は、まさに種々の物事をはじめるべき日。なんと良い一年を予感させてくれることだろう。