2016年5月13日金曜日

【俳句新空間No.3】 大本義幸作品評 / 大塚凱



 二十句の連作作品として、貧困や災害、老いといった社会的な主題性に富んだ作品であった。

  年収200万風が愛した鉄の町
上五の「年収200万」にやや饒舌な印象をもったことや「風が愛した」という表現にお洒落すぎる危うさを感じたことは否定できないが、「鉄の町」と止めたことで句になった。風に吹かれている人物まで、景が立ちあがってくるようだ。

  やわらかき右脳路地裏の猫よ
誰の右脳がやわらかいのか。作者か。人間みんなか。猫か。否、右脳のやわらかさのイメージが、「路地裏の猫」にオーバーラップされているように読みたい。猫はやわらかに、しなやかに、苦しみに満ちた人間の生活の端っこで自らの生を営んでいる。そんなぼんやりとした生き様の猫に、一種の救いを感じるのだ。

  天災と朝顔ポストは右へと曲がる

 この連作の中で最も惹かれた句であった。とある路地に、朝顔が咲いている。おのずから、曲がって捻じれている。この町ではポストもまた、天変地異によって右曲りになってしまったようだ。朝顔とポスト、この異質な二物の姿が重ね合わせられている歪さに惹かれる。天災という見えない力が、街を歪めてしまったのか。