寒き日や「ヒロユキ御飯食べた?」と訊く 北川美美次に配されている句は「食べられる蒲公英を摘む息子かな」である。ヒロユキは蒲公英を摘んで食したのであろうか?初読の際にそう錯覚した。多分、この二句に関係性はないであろう。句の構成は文語に切れ字「や」の上五、中七座五は括弧で括られた口語体の疑問文でご丁寧に?マークが付されている。終わりには終止形の動詞だ。何とも奇態な構えである。むろん二十句の中に異質な掲句が一句だけ挿入されている所が作者の工夫でもあり、二十句を面白くしている由縁である。ヒロユキの片仮名書きはヒロユキと作者が面識のないことを示していて、「ヒロユキ御飯食べた?」の会話が何処からか作者の耳へ聞こえてきたように表現されている。ヌーベルバーグ的偶然を演出して見せている。
「雪焼の男」【俳句新空間No.2】 2014(平成二十六)年[新春帖]所収