2015年2月6日金曜日

登頂回望・号外編(その14) [夏木 久]  /   網野月を 


筑紫野のガソリンスタンド匂ひけり   夏木 久
「楽浪之思賀乃辛碕雖幸有 大宮人之船麻知兼津」と前書きがある。他の九句のもすべて万葉仮名?の前書きが付されている。筆者は万葉仮名を善く読まないが、同時に船はガソリンが燃料なのかも知らない。他に「サクラサクトキニハハハニチチモサク」「ぜつぼうはふかふかしをりはるともし」など、作者の強烈な個性を同じく強烈な言葉に移して表現している。永田耕衣に「自分ともう一人が理解すればよい」というような言葉があるようだが、将にそのような潔さの上に成立している句だ。そうした自己完結的な世界の中で、表現する内容と叙述の方法が研ぎ澄まされていくのを作者本人が楽しんでいるかのようである。

「古人昔日譚・一」【俳句新空間No.2】 2014(平成二十六)年[新春帖]所収