2015年8月11日火曜日

【俳句新空間No.2】  神谷波の句――いきものたちと人間の時間 5 / 佐藤りえ


葭切の大歓迎の水棹かな 神谷波
ここでいう水棹は舟を操舵するものではなく、釣り舟などを固定するために水底、岸などに垂直に打つ水棹の方だろうか。舟が「水棹付け」のためのポイントに向かったところ、水棹にとまっている、または周囲の水辺に集った葭切が騒ぎ出した。葭切の集団の鳴き声はけっこう喧しい。大歓迎と捉えれば、人間の楽しい時間が始まる。

2015年8月10日月曜日

【俳句新空間No.2】  神谷波の句――いきものたちと人間の時間 4 / 佐藤りえ


遠くまでゆく蟻近場ですます蟻 神谷波
「近場ですます」から、餌取りの行軍というより、巣穴から砂を持ちだし捨てにゆくところをイメージする。彼らは巣の養生をいつ果てるともなく続ける。邪魔にならないよう、砂を遠くへ捨てにゆくものとそうでないもの。賑やかな中にも異なるリズムのものが紛れ込んでいる。

2015年8月7日金曜日

【俳句新空間No.2】  津高里永子の句 7 / 仲寒蟬



不公平なるが神様西瓜切る 津高里永子
これも箸休めの句だが他の句とはいささか趣が違う。上後中七では神様の不公平を謗るものの決して強い口調ではない。むしろ投げやりで諦めの雰囲気が漂う。その証拠に下五には西瓜を切るという極めて日常的な行為が付く。なるほど西瓜も公平に切ろうとしたところで機械のようにきっちりとはいかない。

2015年8月6日木曜日

【俳句新空間No.2】  津高里永子の句 6 / 仲寒蟬



網戸より潮風夜間飛行の灯   津高里永子

 所謂二物衝撃の句。暑いので網戸にしてあるのだが海が近い場所らしくそれを通して潮風が入ってくる。羽田空港の近くなどを思い浮かべればよい。如何にも気持ちのいい夜だ。やがて網戸越しに夜空を横切る光が見える。ああ、あれは夜間飛行の灯なのだなと気付く。夏の夜のひと時を巧みに切り取っている。

2015年8月5日水曜日

【俳句新空間No.2】  津高里永子の句 5 / 仲寒蟬


酔へるなりノンアルコールビールでも 津高里永子
これも軽い味わいの一句。しかしそれまで屋外の句であったのがこれを境にしばらく室内の句となる。場面転換の役目も果たしている。

2015年8月4日火曜日

【俳句新空間No.2】  津高里永子の句 4 / 仲寒蟬



塀ぎはの紫陽花猫を濡らしけり 津高里永子
これはまた微妙な感覚の一句。塀際に植えてある紫陽花が少し前に降った雨のためまだ湿っている。猫は道の端や塀際を歩くので、紫陽花の葉に溜まった雫に触れ、濡れてしまうのだ。何気ない日常の一齣ではあるけれど、よほど注意して観察しないと中々こういう風には詠めないものだ。

2015年8月3日月曜日

【俳句新空間No.2】  津高里永子の句 3 / 仲寒蟬


洗濯場暑し給湯室涼し 津高里永子
この句は対照的なものを対句のように並べるというひとつのパターン。それでもこういう息抜き的な句があると先へ読み進もうという気になる。二十句の中にはこのように軽いけれども通り過ぎるには惜しい作品がいくつかある。